ニューロン新生の分子基盤と精神機能への影響の解明 CREST 「脳と学習」領域 大隅プロジェクト

神経の再生と分化に関する国際カンファレンス Neurogenesis 2007が開催されました

2007年5月15日から二日間にわたり,お台場・日本科学未来館にて Neurogenesis 2007 が開催されました。お台場というと花火大会やフジテレビの印象しかありませんでしたが,このような国際カンファレンスを催せるような場所があることを今回初めて知ることになりました。神経の再生と分化に関するカンファレンスということで,神経発生の分野に不慣れな一学生である自分にとっては研究する上での関心の対象や研究手法の差異を体感させていただくことができ,また新鮮な話を拝聴させていただく機会にもなり,個人的にもとても素晴らしいカンファレンスだったと思います。

カンファレンスにおける講演の流れとしては,神経発生,神経幹細胞・再生医療,成人での神経新生という三つの大きな柱がありました。いくつかの視点から神経発生を論じることで,素人の自分にもこの分野の多様性が垣間見られたように思いました。

個人的には,講演の中でも特に印象的だったものが三つありました。一つは,影山龍一郎博士のお話です。マウスの遺伝子工学を駆使し,bHLH 遺伝子と神経幹細胞からのニューロン・グリアへの分化を推察して行く手法は学ぶべきところが多かったと思います。マウス遺伝子工学を巧みに扱うことができれば,神経発生に限らずかなり高度な実験系が組めると改めて感じました。

二つ目は影山博士の一つ前の演者,Francois Guillemot 博士のお話です。マイクロアレイで標的遺伝子 (注目する遺伝子によって発現のスイッチが制御される遺伝子) 候補をスクリーニングし,その機能解析をするという内容でしたが,そのお話の中で機能解析を先行している点に注目しました。自分のように分子生物学から入った人間は,スクリーニングで得られた候補遺伝子が直接の標的かどうかの解析を先行し,それを確認してから機能解析を行う傾向があるように思います。一方,Francois Guillemot 博士のお話では,そうしたことよりも標的遺伝子候補を「候補」のまま,細胞運動などの機能解析を先行していました。無論,後でそのあたりは追加実験で詰めるのでしょうが,そこに関して質問があったわけでもなく,神経発生の分野ではよくある話なのかなと,新鮮に感じました。

最後に,Short Talk でしたが高雄啓三博士のお話は最も印象的でした。新しいものを発見したいという目標は研究者であれば誰もが持っているものだと思いますが,そのための方法論は様々です。行動実験で異常が見られたマウスから海馬を採取してマイクロアレイで新しい標的遺伝子をスクリーニングするという試みは,新しいものを拾って来ようという野心を感じるとても興味深いものでした。講演の後,ポスターにも直行していくつか質問させていただきましたが,丁寧に御教授いただいて感謝しております。特定の遺伝子から研究を始めるやり方もありますが,現象から網羅的スクリーニングを行う方法は文献学に過度に引きずられることもなく,新しいものを追求する一つの方法として自分の関心も尽きることがありません。

国際カンファレンスだけあり,外国からもたくさんの参加者がいらっしゃいました。またそれだけに参加者の興味や関心も広がり,結果として質疑応答も活発なものになったように思います。医学部のカリキュラムの一貫として大隅先生の研究室にお世話になり,さらにこのような有意義なカンファレンスに参加させていただくことができ,誠に感謝しております。

東北大学医学部6年 相羽 智生

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