ニューロン新生の分子基盤と精神機能への影響の解明 CREST 「脳と学習」領域 大隅プロジェクト

第1回CREST「脳と学習」公開シンポジウム

2005年11月19日に東京の都市センターホテルにおいて第1回CREST「脳と学習」公開シンポジウムが開催され、大隅典子は「ニューロン新生と脳のしなやかな発達」と題する講演を行いました。

趣旨:
 脳の中には1000億個のニューロン(神経細胞)と、その10倍の数のグリア細胞(神経膠細胞)が存在し、精密なネットワークを形成しています。たった1個の受精卵から出発して、60兆個の細胞から成る体が、そして脳ができる仕組みは、長い進化の過程で備わってきたものですが、まさに驚異的というしかありません。脳は、胎生期の初期から多数の遺伝子が互いに作用することによって作り上げられます。まず、脳の細胞の元になる細胞(これを神経前駆細胞と呼びます)がたくさん分裂して数を増やし、ニューロンやグリアの細胞に変化する(これを分化と呼びます)ことが必要です。ニューロンは軸索という長い細胞突起を伸ばして互いにつながり、神経回路を作り上げます。グリアの細胞のある種のものは、軸索の周りをぐるぐる巻きにして、髄鞘(ミエリン鞘)を形成します。この髄鞘は絶縁ケーブルのようなもので、ニューロンの電気的なシグナルが素早く伝わるように働きます。別の種類のグリアの細胞は、脳の血管からの栄養をニューロンに与えるお母さんのような働きをします。これまでニューロンの産生は生後すぐの時点で終了し、後は死んでいくだけだと思われていました。ところが、ここ15年間の研究成果から、脳の中でのニューロン新生は生後も持続し、大人の脳でも(量は減りますが)ニューロン新生が生じていることが分かってきました。私たちの研究室では、このようなニューロン新生のときの細胞の振る舞いや遺伝的プログラム、行動との関係について明らかにするための研究に取り組んでいます。
 「遺伝子は(あるいはDNAは、ゲノムは)体の設計図である」という喩えが日常よく使われています。これは遺伝子のはたらきの一面を表していますが、遺伝子はきちんと決まった「設計図」というよりもっと柔軟なものです。出来上がった脳の中でも遺伝子は時々刻々と働いています。経験や栄養その他の環境の作用を受けて、遺伝子のはたらきは変わります。私たち脳の発生発達の研究者は、遺伝子同士の、そして遺伝子と環境の相互作用を理解することにより、心のはたらきをもっとよく理解したいと考えています。

「脳の機能発達と学習メカニズムの解明」 サイト

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